<水野祐×UB伊澤>バイネームで働ける法務パーソンにならないか

常識にとらわれず、自由に挑戦する人をご紹介する UB Journal。


今回は「法を駆使してイノベーションを最大化する」をテーマに掲げ、従来の枠に縛られず、音楽やデザイン、アート、IT、まちづくり等の分野の戦略法務にも携わられている弁護士の水野祐さんに、同じく弁護士であり、ユーザベースで法務の型にはめられず自由に働いている伊澤太郎が、これからの法務パーソン像について伺ってきました。

水野祐

TASUKU MIZUNO

弁護士

弁護士(シティライツ法律事務所)。Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。グッドデザイン賞審査員。その他、FabLab Japan Networkなどにも所属。IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。

伊澤太郎

TARO IZAWA

株式会社ユーザベース 弁護士

新卒で、ベイン・アンド・カンパニーに入社し、大手日本・外資企業の全社戦略・チャネル戦略立案、M&A戦略立案、合併後のPMIなどに従事。 その後、より高い専門性を求めて、法科大学院を経て弁護士資格を取得。事業再生その他倒産処理に高い専門性を持つ米国系法律事務所にて、企業法務と倒産処理業務に従事したのち、より事業に強くコミットする場を求めて、企業内弁護士としてゲーム会社を経て、2017年4月にユーザベースに入社。 入社後は、M&A、事業再編、情報管理体制を含む内部統制システム構築、契約書・規約の作成・整備、労務対応など、法務に限らず、コーポレート業務全般に従事。

「法務らしい法務」の仕事だけじゃ面白くない

伊澤:僕は法律のバックグラウンドはあるけど、「これは法務の仕事だよ」と振られたものだけをやるのではなく、眼の前の案件をまわりの人と一緒にやろうという意識のほうが強いんです。そのスタンスは、自分で事務所を構えている水野さんとも近いと思います。

水野:そうですね。さっそく、そんな伊澤さんに聞いてみたいんですが、4月に発表された経産省の有識者会議の報告書(国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書)を見て、どう思いましたか。簡単に言えば、日本企業をもっと強くするためには経営に戦略的な法務の視点が必要だ、そのために法務をもっと活用していくべきだ、という内容でしたが。

伊澤:報告書では、「法務は法務の仕事に専念する」という前提があって、そのうえで領域を拡大していくという発想でしたね。少し偉そうな言い方をすると、まだ従来の「法務」という型に縛られている気がしました。

水野:おお、おもしろいですね。

伊澤:「経営企画が作ったビジョンをロジックにするのが法務だ」みたいな固定観念は、はっきり言って邪魔です。だって、実際に僕はビジョンにも口を出しますから。変わったところでは、ユーザベースのオフィス移転の実務におけるリーダーもやっています。

水野:たしかにスタートアップじゃないかぎり、普通、法務がやる仕事じゃないですね。

伊澤:オフィス移転に際して、「ポートランドにある最新のオフィスを見に行こう」という話があって、面白そうだから、「私費でいいから連れていってほしい」と話したんです。そうしたら、「金は出す。そのかわり、仕事をしてくれ」と、リーダーにされました(苦笑)。

でも、オフィスのデザインにともなって、働き方についても考える機会が増えて、大変だけど楽しいですよ。

 

 

「水野に任せてダメなら諦められる」そんな風に言われる仕事をしたい

伊澤:報告書の話に戻ると、「法務にはガーディアンとしての要素もある」という部分は響きました。

水野:報告書ではやはり法務は企業の最後の砦、ガーディアンであるべきということを言っていましたね。「ダメなものはダメ」と言える法務の能力や立場というのは意外に見過ごされがちです。ただ、一社員である以上、どこまで本気で経営層を止められるのかは企業や人によって差があるように感じます。経営層が法務の役割をどこまで認識しているのか、次第でもありますが。

伊澤:法律の枠にかぎらず、「人として、このビジネスモデルはどうなのか」という部分にもこだわることができるのは、法務ならではかもしれませんね。誰かと組んで事業をやるとき、どちらか極端に有利という状態では続きません。だって、嫌になっちゃうから。

水野:交渉って、自分たちに有利な状況を作ることだけを考えていると失敗しますよね。力関係にかなりの差がないかぎりは、完全勝利なんて無理。仮に契約交渉で出し抜けたとしても、最終的に不協和音を生み出して終わりです。

伊澤:だから取引先のことも考えられる企業じゃないと長続きしない。そういうところで、法務パーソンが調整に入れたらいいなと思います。目の前のことだけじゃなくて、部署全体、会社全体、あるいは取引先も含めた社会全体を眺めることができるような、視点を変えられる法務パーソンって、かっこいいじゃないですか。

水野:私はどちらかというと、横綱相撲を「仕掛けられる側」に立って弱い立場で契約交渉することが多い。そんな状況だと、こちらが完勝するなんてことは、まずないわけです。

伊澤:でも、たとえば裁判にしても、そこで「勝つ」ことが本当の目的かというと、そうじゃないですよね。

水野:そうですね。私は、裁判で勝てなくても、最終的に依頼者の利益になる方法はいくらでもあるというスタンスです。例えば、裁判で勝てなくても、事件自体が社会的に耳目を集めれば、目的を達成できるような場面もあるわけです。あらゆる寝技を駆使するのが好きですね(笑)。裁判で負けたとしても、最終的にこちらが目指していた状況を実現させればそれでいい。そのためには、マスコミでもなんでも使えるものは使うという姿勢です。

最終的に私が目指すのは、「水野に任せてダメだったら、諦めるしかないね」と依頼者に言ってもらえるようなプロフェッショナル。訴訟であれば、「水野さんで勝てないなら仕方ない」とか、あるいはガーディアンとして新規事業にNGを出したとしても、納得してもらえるような。

伊澤:めちゃくちゃかっこいいですね。

水野:かなりハードルが高いことはわかっていますが、志だけは高く持っています(笑)。

 

 

言葉もカルチャーも違う事業会社の面白さ

水野:伊澤さんは法律事務所から事業会社に移ったとき、スムーズに頭を切り替えられましたか。

伊澤:苦労しましたよ。最初に感じたのは、「中に入っちゃうと大事にしてもらえないんだな」ということ。まったく同じことを言っていても、「外部の水野先生」が言うのか、「法務の伊澤さん」が言うのかで、聞いてくれる度合いが違うんです。

水野:弁護士資格を持っていても、「外部の弁護士の先生」と「同僚」とでは見る目が違ってくるんですね(笑)。

伊澤:あと、法律事務所にいたときは、企業の中でも法務の人や、経営企画の人と話すことが多かったけど、事業会社ではそれ以外の人とのやり取りが増えました。弁護士というだけで身構えてしまう人もいるし、テック系の人たちと話すと、人の気質も、言葉もカルチャーも違う。専門用語に全然ついていけなくて。

水野:その状況をどうやって克服したんですか。

伊澤:多少なりとも勉強すると、「この人なりに頑張ってるんだな」というのが伝わるようで、相手の姿勢が変わりました。僕が「わかっていない」ことを前提に、よりわかりやすく話してくれるようになった。

試行錯誤しながらですが、そうした人たちから話しかけてもらえるようになると単純に嬉しいし、話をする中でどんどん新しいものに触れられるだけでなく、新しいものの考え方ができるようになるのがとても面白いです。

 

 

水野:自分の専門外の領域の人から得られるものって、大きいですよね。たとえば私は、仕事のやり方については、同業の弁護士以上に、フリーランスのデザイナーやエンジニア、編集者といった人たちから影響を受けています。私は働く場所にも時間にも縛られないので、弁護士としては異端だとされるけど、ほかの業界ではそういう働き方が当たり前だったりする。自分らしい自然な働き方を実践しているだけなんですが。

伊澤:自分がこれまでいた環境がどれだけ狭かったかがわかるだけでも発見ですよね。僕の場合、事業会社に入ってよかったなと思ったのは、新たな技術を勉強できたことよりも、どんな環境に行っても、自分なりのやり方で入っていって、わからないことを理解しようとするマインドを身に着けられたことです。

でも、水野さんこそ、新しい技術に貪欲に食らいついていきますよね。

水野:「○○法」とすでに名前のついた既存の分野はもうそれなりの蓄積が出てきているから「◯◯法」という名前がついているんですよね。そこにはすでに多くの専門家がいるので、そこで勝負しても目立たない、という弁護士としての生存戦略もあります。

伊澤:新しい技術に食らいつくことで、戦略的にブルーオーシャンを攻めているってことですか。

水野:そうですね。自分の興味関心に従っているうちに、というナチュラルな面もありつつ、たとえば仮想通貨なんかは、興味はありましたが、早い段階で人が集まってきたので、「ここは自分はいいかな」と思ってそんなに深入りしていませんね。でも、逆に金融以外のブロックチェーン技術というカルチャーにはすごく興味があるので、その辺を自分なりに深掘っているところです。

どんな分野でも、「自分にしかできない仕事」は少ない。でも、「自分しかやらない仕事」というのはたしかに存在するので、それを突き詰めていくうちに、その分野の第一人者になれる可能性は高い。

これは先日、けんすうさんがツイートしていたことですが、私も同感です。新しいサービスに関わることの多い事業会社にいれば、そういったチャンスも得られそうですね。

 

法律事務所→インハウスローヤーは「片道切符」じゃない

水野:規模の大きい会社や法律事務所では、専門に特化することが求められます。すると、特定の分野には強くなれても、状況の変化に迅速に対応する力が身につくとはかぎらない。もちろん、毎年細かく改正される法律もありますが、積み重ねがあれば、既存の延長という意味合いが強いですから。

こうやって考えていくと、まだ法律も整備されていない分野に挑戦するのと、ユーザベースのような新しい物事にスピード感をもってトライしてく企業で働くのは、結構似たところがありますね。

伊澤:たしかに、動的に対応することの面白みを感じられるのはベンチャーも同じです。

どんどんビジネスを立ち上げていこうとしている会社では、新事業をどういうスキームでやるかを考えないといけない。法務はビジネスを促進する側でもあるし、ガーディアンでもあるから、変化に対応し続けることが求められます。

人数がどんどん増えている会社も変化が起こり続ける。10人から100人になったとき、100人から1000人になったときで、求められる会社組織は違うし、人の振る舞いも変わる。僕も今まさに、現状のユーザベースに最適な組織のあり方を探っているのですが、これがなかなか難しくて。

水野:でも、そもそも何が問題かもわからない、ごちゃっとした状態を、いろんな人たちとディスカッションしながら解いていくのって、大変だけど楽しいですよね。

 

 

逆説的なメリットになりますが、ベンチャーは法的な視点を持って関わる人がまだ少ないからこそ、自分らしく働ける。つまり、「これは法務に頼もう」というより、「伊澤さんに頼もう」という状況を作りやすい。希少性が高まることは、バイネームで働けることにつながります。

伊澤:そうなりたいし、そうなると思いますよ。

ベンチャーは先行き不安だからと避ける人もいますが、そこで磨いた、変化に対応できて、新しい問題を解決していけるという能力は、ほかの企業でも必ず必要とされる。10年前にベンチャー企業を立ち上げたり、そこで働いたりしていた人たちが、今の新興企業を支えるマネジメント層になっていますが、その流れは法務にも必ずきます。

水野:これまでは、法律事務所からインハウスローヤーになるキャリアが「片道切符」と考えられていましたが、そのトレンドも変わってきて、優秀な弁護士がどんどん企業のインハウスに流れてくるようになってきました。

伊澤:将来的には双方を行き来しながら、キャリアアップしていくのが当たり前になるでしょうね。

上場しても自由な会社のつくり方〜ほぼ日、ユーザベースの場合〜

重視するのは「強烈な原体験」。ユーザベース第5の事業 UB Ventures とは

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