2020.05.08 Uzabase Corporate

自由を支える軸となる――SaaS時代に求められる監査人材のキャリア戦略

企業における監査には、内部監査・監査役監査・会計監査人監査の3種類があります。企業の意思決定スピードがますます早くなり、自社開発のシステムを所有するのではなく、次々と他社の新しいSaaSサービスやプロダクトを利用する方向に加速していく今、リスクマネジメントおよびコントロール、ガバナンスプロセスなど、内部監査の重要性はますます高まっています。今回はユーザベースの社外取締役(監査等委員)を務める琴坂将広氏と、Assurance and Consulting Team(内部監査)責任者の嶋田に、SaaS時代に求められる監査人材のキャリア戦略について、話を聞きました。

嶋田 敬子NORIKO SHIMADA

Assurance and Consulting Team責任者

同志社大学を卒業後、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)に入社。事業会社を経て夫の転勤に伴い渡米。単身帰国後、第一子を出産。その後コンサルティング会社勤務を経て、2015年より常勤監査役としてユーザベースにジョイン、マザーズ上場に寄与。2019年3月より現職。2児の母。

琴坂 将広MASAHIRO KOTOSAKA

ユーザベース社外取締役(監査等委員)/慶應義塾大学 総合政策学部 准教授

慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学時には、小売・ITの領域において3社を起業する。卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルトに在籍。北欧、西欧、中東、アジアの9カ国において多国籍企業の戦略策定に関わる。2008年に同社退職後、オックスフォード大学経営大学院に移籍、助手を勤めながら博士号(経営学)を取得、立命館大学を経て、2016年から現職。

本当のガバナンスとは何かが問われる環境

――そもそも監査法人と事業会社の監査では、具体的に何が違うんですか?

嶋田:
監査法人はプロジェクト毎にアサインされるので、時間も有限ですし、次も同じプロジェクトに付くとは限りません。そのため自分で実行して、関係者に連絡を取って改善することが難しく、かつ期限が来たら強制的にプロジェクトが終わります。そうなるとせっかく解決策を持っていても実現できず消化不良感があるんですね。

でも事業会社の中に入ると、関係者同士の関係性や担当者の力量、入退社の理由や背景、事業のフェーズなどが見えてきます。各社の事情によってやるべきことや課題はさまざまですが、外部からでは得られない情報があり、かつ期限も柔軟に設定できるため、最後まで自分で見届けられるんです。

琴坂:
やはり監査法人と事業会社では、関係者との関係性は異なります。監査法人はあくまで独立中立の外部から指摘する立場なので、緊張関係がある。事業会社における監査は、内部の人と一緒に作り上げていく関係性があります。

監査法人の方々は、第三者的な視点から見て課題を発見することが出発点です。一方で内部監査はその出発点から、なぜその状況になっているのかを具体的に理解し、それを解決することが求められます。それだけでなく、どのように解決するのが自社にとって良いのかを考え、実際に問題が起きる前に解決策を講じる役割を担っているのだと思います。

――嶋田さんはもともと常勤監査役としてユーザベースの監査を担当されていましたが、2019年に社員として入社されています。なぜ社員になろうと思ったんですか?

嶋田:
当時は社内に独立した内部監査室がなかったこともあり、内側からしっかりやっていくことが大事だと感じたからです。監査役は執行してはいけないという一線があるので、実行力がないんですね。

琴坂:
もともと外側からユーザベースを見ていた嶋田さんが、実際に中に入ってくれたのは、監査等委員としては非常にありがたかった。もちろん、まだまだ手が回っていない部分もありますが、課題は明らかだし、やることも見えていて、少しずつ前に進んでいるのが現状です。やるべきことが今の時点でクリアになっていても、おそらく1年後のユーザベースは、またやるべきことが変わっているとは思いますが(笑)。だからこそ、ユーザベースは面白いんです。

――変化のスピードが早いですからね。もともと外側から見ていたとはいえ、企業の中に入る際にはユーザベース以外の選択肢もあったと思います。なぜユーザベースを選んだんですか?

嶋田:
もし企業の中に入るなら、何か社会的に意義のある業種が良いと考えていました。ユーザベースは「経済情報で、世界を変える」というミッションを掲げ、SPEEDAやNewsPicksなどさまざまなビジネスを展開しています。ビジネスだけでなく会社として良い組織にしようという信念がある。その点に強く惹かれました。

もちろん、以前から監査役として関わっていたので、経営陣の人柄がわかっていたことも大きいですね。彼らのミッションを一緒に実現していきたいと思ったんです。また、一般的な監査としてのAssurance機能だけでなく、コンサルティング機能としての役割を担うことを提案し認めてもらったことも魅力的でした。

琴坂:
内部統制とはいっても、堅苦しい制度や使いにくい仕組みで圧力をかけるのでは、「自由主義で行こう」と個人の自立性を尊重するユーザベースの良さが失われてしまいます。そうではなく、クリエイティブな人たちが自らのクリエイティビティを発揮し、かつ必要なプロセスをちゃんと踏んでいくにはどうすればいいか――ユーザベースにおける監査の理想は、本当のガバナンスとは何かが問われる、一段上の発想が求められるんだろうなと考えています。

嶋田:
そうですね。ただ、プロフェッショナルファームにいる人に事業会社への転職を勧めると、断られることも多いんですよ。

――なぜですか?

嶋田:
プロフェッショナルファームではさまざま会社を担当するので、それぞれの論点の違いを見ることができます。それによって、自分のスキルやプロフェッショナリティを高めていけるという仮説を持っていらっしゃる方が多くて。事業会社に入ると1社しか見れなくなると考え、断られるわけです。
でもユーザベースは事業の幅も広く、それぞれの事業で論点も違います。2~3年ではつぶしきれないテーマがあるので、複数の会社を見るのと同等以上のものが得られるのではと感じています。

琴坂:
しかも、おそらく今後もどんどん事業が増えていきそうですよね。ユーザベースの歴史を振り返ると、SPEEDAで創業し、NewsPicksが始まって、INITIAL、FORCASができて、UB Venturesもあれば、Quartzも買収。上海やシンガポール、スリランカ、ニューヨークなど、海外拠点も複数あります。1つの会社でありながら、すごくカラフルな環境だと思うんですね。

しかもサイズ感もちょうどいい。もっと大きな会社になると、数年間で1人の手で何かを変えるのは不可能に近いかもしれません。でもユーザベースの規模感なら、1人の手で大きな事業インパクトをもたらすこともできるはずです。


ユーザベース嶋田

イノベーションで戦うための土台をつくる

――ユーザベースで監査をやる難しさについて教えてください。

琴坂:
いろいろな事業を展開していて、しかも求められるスピードも速いので、難しいというか大変ですね(笑)。内部監査でも、10年前に決まったオペレーションを粛々とやる会社であればミスも起きにくいでしょう。でもユーザベースは挑戦と失敗を繰り返していくので、とにかく大変です。

嶋田:
そうですね。一番の難しさは、関係者がどんどん増えていく点です。私が監査として関わり始めた2015年は社員数150人くらいでしたが、今は海外メンバーも合わせると700人くらい。事業も2015年当時はなかったFORCASやINITIAL、AlphaDriveやNewsPicks Studios、Quartzなどが増え、関係者がとにかく多いんです。150人くらいの頃は、直接話しに行けば解決していました。例えば昔はJ-SOXの話も3~4人に話せば終わったのに、今は日本だけで50人くらい関係者がいるんですよ。

琴坂:
会社はオペレーションに強みを持つ会社と、イノベーションに強みを持つ会社に分かれると思っています。オペレーションが強い会社は、1つの事業モデルや商品をシンプルに追求していく会社のイメージです。同じような特性をもつ人が比較的に集まりやすい。

一方、ユーザベースのようなイノベーションに強みを持つ会社は個性の強い人がたくさんいるわけです。個性が強すぎて、それぞれが自分のやり方に強いこだわりを持っているケースが多いんですね。でも個々のやり方にこだわっていては事業は回りません。

ユーザベースが持っているメディア事業や企業情報サービスは、いわば社会の公器です。しかも上場企業なので、社会的責任を果たす必要があります。そのためにはオペレーションの土台を構築することが重要です。それができて初めて、イノベーションで戦っていけるのではないでしょうか。ユーザベースにはイノベーターが多いからこそ、その土台をつくる内部監査の活躍の場がたくさんあるんです。

――先ほど琴坂さんが「今の規模感がちょうどいい」とおっしゃっていましたが、いずれユーザベースがもっと大きくなったとき、内部監査の仕事はオペレーティブというか、型化していくのでしょうか。

琴坂:
どうでしょうね。毎年どんどんやることが変わるので、ある意味飽きる心配は一切ないのではと思います(笑)。なぜなら、ユーザベースは良くも悪くもミッションドリブンの会社だからです。プロダクトドリブン、グロースドリブンでやるなら、SPEEDAだけに絞ったほうが、もしかしたら成長が速かったかもしれません。

でも、やっぱり「経済情報で、世界を変える」がミッションなので、情報やメディアの可能性を追求し始めるわけです。今は700人いるとはいえ、一つひとつの事業規模はさほど大きくありません。Quartz JAPANやNewsPicks Studios、NewsPicks Publishingなど、それぞれ全く違う小さな事業の集合体なんですね。SPEEDAも、プロフェッショナル領域の商品と、営業やマーケティングなど向けの商品群の展開は全然違います。

だからこそ、今後は一つひとつの事業サイズを戦略的に大きくしていく必要があります。そのためには仕組み化が重要で、オペレーションがきっちり決まっている会社と同じレベルのシンプルさ、効率性を追求していくことが求められるんです。


琴坂

SaaS時代の未来の監査を創っていく

――ユーザベースでは、SalesforceやMarketo,Money Forwardなど、さまざまなSaaSサービスやプロダクトを使用しています。監査上でのメリットや難しさがあれば教えてください。

嶋田:
さまざまなサービスについて、その内容や脆弱性がどこにあるのか、何を繋ぎ込むときにリスクがあるのか分かるのはメリットですね。実際に触れたことがないと、机上の空論になってしまうと思っていて。

琴坂:
しかも自社サービスではないので、より良いものが出てきたらスイッチすることに何の抵抗もありません。だから絶えず新しいサービスを試せるんですよ。新しいサービスをどんどん試すことによって、監査上の穴を塞げることもあります。自社開発のシステムだと、データのマイグレーションなど難しい点も多いですから。特にSaaSサービスであれば、他社にもたくさんユーザーがいて、どんどんフィードバックが反映されるので、より課題を解決できる可能性が高くなります。

経営戦略として自社の差別化ポイントを考え、差別化できるところは独自性を担保して、それ以外はSaaSを含む外部サービスをどんどん使う――おそらく独自システムをつくるより、今後はSaaSを活用する会社が増えるのではと考えています。

――SaaSサービスを使う場合、IT監査が重要になりますよね。

嶋田:
ユーザベースの管理系や営業系のツールの多くはSaaSサービスを使っています。となると、当然アカウント管理は非常に重要です。まだシングルサインオンを利用しているサービスが少なく、脆弱なものもあります。また、そのサービスを使う人のITリテラシーがあまり高くない場合もありますよね。

つまりシステムでの統制を整えるだけでなく、マスター登録の際は二重チェックするようにするなど、オペレーションのマニュアルをしっかり整えて予防する必要もあるわけです。システム化もオペレーションをきっちり回していく部分も、その周知や従業員教育も含め、正直なところまだ弱いと感じています。何しろ自由主義を重視しているので、現場がどんどん新しいSaaSサービスを使っちゃうんですよ(笑)。

琴坂:
だからこそ、ユーザベースでのIT監査には、SaaSサービスやプロダクトに関するエキスパートにもなってほしいわけですよね。使用するサービスやプロダクトがたくさんあって、それを使いこなせない人も一定数いることを前提に、仕組みを作り上げなければなりませんから。

ものすごくぜいたくを言えば、システムの特性を理解したうえで、それを現場のオペレーションプロセスに組み込めるような人にIT監査を担ってほしいですね。法令に基づくだけでもなく、システムだけを見るのでもなく、そのうえに乗っているプロセス――すなわち事業そのものを見て、適切にフローに落とし込むような発想が求められます。現場でイノベーションを生む人たちの勢いを削ぐことなく、正しく必要なことを実行できるようにしてほしい。

――法令やシステムだけでなく、使う人を見て監査できるような人というわけですね。

琴坂:
きっとそれが未来の監査の形ではないでしょうか。教科書にも載っていないし、誰かから学べるものでもなく、まさに今、新しいタイプの会社が創り出していく。「攻めのガバナンス」という言葉がありますよね。私はそれこそが正しいガバナンスだと思うんです。

――面接で何を一番見ていますか?

嶋田:
「自分の頭で考えているか」ですね。法律ありきではなく、会社の状況やリスクに照らし合わせて、何が必要なのか考えられるか。法律があるからダメだと言って終わるのではなく、会社としてやりたいことに対して、どうやったらできるのかを考えられるような人がいいですね。

監査法人にいた頃を振り返ってみると、お客様や経営者との距離感があったなと思うんですね。今は信頼し合えるパートナーとしての距離感で経営陣と一緒に働けているので、すごくやりがいがあります。

今もどんどん新しい取り組みが増えているし、まだできていないこともたくさんあります。監査法人での経験がある人から見たら、やらなければならないことだらけで、どんどん自ら解決できてむしろ楽しいんじゃないかなと思います。ぜひ私たちを助けてください(笑)。

※文中写真は2017〜2019年に撮影されたものです。
※本記事はオンライン(zoom)にて取材しました。

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